米国特許で「引用文献もその機能を実行できる」と新規性を拒絶された場合の対応

米国の特許審査では、機能によって限定された装置クレームについて、先行技術に当該機能が明示されていないにもかかわらず、新規性が否定される場合があります。

特に問題となるのが、審査官から、先行技術の装置もクレームに記載された機能を実行可能(capable of)であると認定された場合です。

このようなオフィスアクションを受けた場合に、どのような点を検討すべきでしょうか。

まず、実務上の検討事項を簡潔に整理します。その後、MPEPや判例を踏まえて、その理由を詳しく説明します。

オフィスアクションを受けた場合にまず確認すること

例えば、次のような装置クレームを考えます。

An apparatus comprising:
a controller configured to perform X.

これに対して、引用文献にはapparatusとcontrollerが開示されているものの、controllerがXを実行することまでは開示されていないとします。

この場合でも、審査官が、引用文献のcontrollerもXを実行可能であるとして、新規性を否定することがあります。

このような拒絶を受けた場合、「引用文献にはXが記載されていない」というだけでは、十分な反論にならない場合があります。

まず検討したいのは、

引用文献に開示された装置が、その構成のままで、本当にXを実行できるのか

という点です。

審査官がクレームの構成要素に対応すると認定した引用文献の部材について、その構造のままでクレームされた機能を実行できるかを確認します。

例えば、

  • その機能に必要な入力を取得できるか
  • その機能に必要な演算や制御を実行できるか
  • その機能に必要な出力先に接続されているか
  • 他の構成要素との関係によって、その機能の実行が妨げられないか
  • その機能を実行するために、構造、プログラム、設定などの変更が必要ではないか

といった点を確認します。

重要なのは、「変更すればXを実行できる」ことと、「引用文献に開示された装置がXを実行できる」こととは別であるという点です。

構造上はXを実行できそうな場合でも、引用文献全体の記載を確認します。

例えば、審査官が想定する動作を行わせると、引用文献に記載された本来の動作ができなくなる場合や、引用文献が目的とする機能が損なわれる場合があります。

そのような場合には、

審査官が想定する機能の実行が、引用文献に記載された装置の構成、動作、目的と本当に整合しているのか

を検討します。

以上を検討しても、引用文献の装置がXを実行可能であるという審査官の認定を覆すことが難しい場合には、補正を検討します。

その際には、

本願では、どのような構成によってXが実現されているのか

を確認します。

例えば、特定の入力、接続関係、処理、制御条件などによってXが実現されているのであれば、その構成をクレームに追加することで、引用文献との差異を明確にできる可能性があります。


なぜ、機能が引用文献に記載されていなくても新規性が否定されるのか

ここからは、以上のような検討が必要となる理由を、MPEPや判例を踏まえて説明します。

MPEP §2114では、装置の特徴は、構造的にも機能的にも記載できると説明されています。

したがって、装置クレームに記載された機能的限定が、新規性の判断において当然に無視されるわけではありません。

一方、MPEP §2114は、機能的なクレーム文言が特定の構造に限定されていない場合、その機能を実行可能な装置を広くカバーし得ると説明しています。

そして、先行技術の装置がクレームされた機能をinherentlyに実行可能であれば、35 U.S.C. §102または§103による拒絶が可能であるとしています。

この考え方を理解するうえで重要なのが、**In re Schreiber, 128 F.3d 1473 (Fed. Cir. 1997)**です。

Schreiberのクレームは、ポップコーンなどを容器から供給するための円錐状のdispensing topに関するものでした。

一方、引用文献には、オイル缶に使用される円錐状のspoutが開示されていました。

引用文献の用途は異なっていましたが、問題となったのは、引用文献のspoutの構造が、クレームされた機能を本来的に備えているかという点でした。

Federal Circuitは、出願人が装置の特徴を機能的に記載できることを認めつつ、先行技術の構造がその機能を本来的に備えている場合には、その機能的限定によって先行技術と区別できないとの考え方を示しました。

MPEP §2114も、審査官が機能的限定を先行技術のinherent characteristicであると判断する場合には、先行技術の構造がその機能的限定を本来的に備えることを説明すべきであるとしています。

したがって、

引用文献にはXを実行することが書かれていない。

というだけでは、必ずしも十分ではありません。

引用文献に開示された構造が、本当にXを実行可能なのか

まで確認する必要があります。

MPEP §2112.01も、この点について重要な考え方を示しています。

本願と先行技術の装置が同一又は実質的に同一の構造を有する場合には、クレームされた性質や機能が先行技術にも内在するとして、anticipationまたはobviousnessのprima facie case(一応の立証)が成立し得ます。

その場合には、先行技術がその性質を必ずしも備えていないことを示す負担が出願人側に移る場合があります。

したがって、装置の構造自体が引用文献と共通している場合には、

「Xという機能が引用文献に明示されていない」

という形式的な違いだけではなく、

なぜ引用文献の装置ではXが実現されないのか

を具体的に検討することが重要になります。

ここで、前回の記事で取り上げた“configured to”との関係が問題になります。

例えば、

a controller configured to perform X

とクレームに記載されている場合、

“configured to”は単なる“capable of”ではなく、Xを実行するように構成されたcontrollerを要求している。

と反論することも考えられます。

実際、**Nevro Corp. v. Boston Scientific Corp.(Fed. Cir. 2020)**では、問題となった“configured to”について、クレームや明細書の記載を踏まえて、単なる“capable of”ではなく、“programmed to”と解釈されました。

一方、米国の特許審査では、クレームには、明細書と整合する範囲で**Broadest Reasonable Interpretation(BRI)**が適用されます。そのため、明細書にXを実行する具体的な実施形態が記載されているというだけで、その具体的な構成が“configured to perform X”の限定として当然に読み込まれるわけではありません。

この点を考えるうえで参考になるのが、2026年の**In re Blue Buffalo Enterprises, Inc.**です。同判決では、Federal Circuitは、Giannelli等ではクレームや明細書の文脈に狭い解釈を支持する根拠があったことを指摘する一方、当該事件の“configured to”および“configured for”については、“capable of”より狭く解釈する根拠がないとして、PTABの解釈を支持しました。

したがって、

「configured toと記載しているから、単なるcapable ofではない」

というだけでは、必ずしも強い反論にはなりません。

クレームや明細書の記載から、“configured to”をより限定的に解釈すべき根拠があれば、そのクレーム解釈に基づいて反論する余地はあります。しかし、実務上は、“configured to”という文言だけに頼るのではなく、まず、引用文献に開示された装置が、その構成のままで本当にクレームされた機能を実行できるのかを具体的に検討することが重要だと考えます。

OA対応方針のまとめ

機能的限定を含む装置クレームについて、引用文献にその機能が明示されていなくても、引用文献の装置がその機能を本来的に備えているとして、新規性が否定される場合があります。

このようなオフィスアクションを受けた場合には、

「引用文献にはその機能が書かれていない」

という点だけでなく、

「引用文献に開示された装置が、その構成のままで、本当にその機能を実行できるのか」

を確認することが重要です。

具体的には、引用文献の構造、接続関係、入力・出力、制御内容などを確認するとともに、審査官が想定する機能の実行が引用文献の記載する動作や目的と整合しているかを検討します。

また、“configured to”を単なる“capable of”より狭く解釈できる場合もありますが、BRIの下では、“configured to”という文言だけに過度に期待することはできません。

それでも引用文献との差異を明確にできない場合には、その機能を実現する具体的な構成をクレームに追加することを検討します。

機能が引用文献に明示されているかではなく、引用文献の装置がその機能を本当に備えているのか。

機能的限定に基づく新規性拒絶を受けた場合には、まずこの点から検討することが重要だと考えます。

将来のOA対応を考えると、原文明細書の記載が重要

以上のような問題は、オフィスアクションを受けた後だけでなく、原文明細書を作成する段階から意識しておくことが重要です。

機能的限定だけでは引用文献との差異を明確にできない場合、その機能を実現する具体的な構成をクレームに追加することが考えられます。

しかし、そのような補正を行うためには、当然ながら、その根拠となる構成が原文明細書に記載されている必要があります。

例えば、

controller configured to perform X

とクレームする可能性があるのであれば、単に「controllerがXを実行する」と記載するだけでなく、

controllerがどのような入力情報を用い、どのような処理を行い、他の構成要素とどのように関係してXを実現するのか

まで原文明細書に記載しておくことが重要です。

そうしておけば、米国の審査において「引用文献のcontrollerもXを実行可能である」と指摘された場合にも、具体的な構成をクレームに追加して、引用文献との差異を明確にできる可能性があります。

つまり、将来の米国でのOA対応まで考えると、機能だけでなく、その機能を実現する構成まで原文明細書に仕込んでおくことが重要になります。

AI翻訳でも、単に“configured to”と訳せばよいわけではない

この点は、AIを利用して英文特許明細書を作成する場合にも同様です。

「Xするように構成された制御部」を、

a controller configured to perform X

と英訳すること自体は、現在のAIであれば容易です。

しかし、今回見てきたように、“configured to”という表現を使用しただけで、その機能が先行技術との強い差異になるとは限りません。

重要なのは、その英訳以前に、Xを実現するための具体的な構成が原文明細書に十分に記載されているかという点です。

そのため、AIを特許翻訳に利用する場合にも、単に日本語を自然な英語に変換するだけでなく、米国特許実務を踏まえて原文明細書と英文を確認することが重要だと考えます。

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米国出願を含む外国出願を想定し、単なる英訳にとどまらず、特許実務の観点から英文を確認しています。

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