米国国内移行時の「ミラートランスレーション」で思わぬ落とし穴 ― Word原稿とPCT出願書類は同じではない

近年、米国国内移行において、「ミラートランスレーション(Mirror Translation)」ではないとして補正を求められるケースを経験しました。

指摘内容を見て驚いたのですが、問題となったのは発明内容ではありません。

「発明の名称」の後ろにコロン(:)が付いていない

という、極めて形式的な点でした。

そこで、本ケースの原因と対策についてまとめました。

Word原稿とPCT出願書類では形式が異なる

通常、PCTオンライン出願のために作成するWord原稿は、

【発明の名称】 ○○装置および○○方法

のような形式になっています。

ところが、この原稿をPCT出願書類に様式変換すると、

発明の名称 : ○○装置および○○方法

というように、「:」が自動的に追加されます。

さらに比較してみると、

  • 【0001】 → [0001]
  • 【図1】 → [図1]
  • 【特許文献1】 → 特許文献1:
  • 見出しの【】が削除される

など、PCT様式への変換時に多くの様式変更が行われています。

Wordをそのまま翻訳すると起こり得る問題

国内代理人が普段目にしているのはWord原稿です。

そのため、Wordをそのまま翻訳すると、

PCT出願書類への変換時に自動で追加・変更された記号や書式を反映できないことがあります。

今回問題となったコロンも、その一例でした。

内容としては全く同じ翻訳であっても、PCT出願書類との形式的一致を求められ、補正を要することがあります。

近年の米国国内移行では、このような形式的一致まで求められるケースが見られます。

翻訳文作成時の形式チェックポイント

Word原稿とPCT出願書類を比較したところ、PCT出願書類への変換に伴って次のように変更されることが確認されました。

Word原稿PCT出願書類備考
【書類名】 明細書明細書表題削除
【発明の名称】 発明名発明の名称 : 発明名【】削除 コロン追加
【技術分野】技術分野【】削除
【背景技術】背景技術【】削除
【先行技術文献】先行技術文献【】削除
【特許文献】特許文献【】削除
【特許文献1】特許文献1:【】削除 コロン追加
【発明の概要】発明の概要【】削除
【発明が解決しようとする課題】発明が解決しようとする課題【】削除
【課題を解決するための手段】課題を解決するための手段【】削除
【発明の効果】発明の効果【】削除
【図面の簡単な説明】図面の簡単な説明【】削除
【図1】[図1]【】→[]
【発明を実施するための形態】発明を実施するための形態【】削除
【産業上の利用可能性】産業上の利用可能性【】削除
【符号の説明】符号の説明【】削除
【0001】[0001]【】→[]
【書類名】請求の範囲請求の範囲表題削除
【請求項1】[請求項1]【】→[]
【書類名】要約書要約書表題削除


したがって、これらの変更が翻訳文に反映されているかをチェックすることが、本ケースのような形式的な不一致に起因する補正を回避するための対策となります。

ミラートランスレーションの観点からは、Word原稿ではなく、PCT変換後の文書を翻訳の基準とする方が安全と考えられます。

AIを活用した特許翻訳では、翻訳以外の品質管理も重要

AIを用いて特許翻訳を行う場合には、編集や前処理が容易であることから、Wordファイルを入力データとして用いるケースが多いのではないかと思います。

しかし、今回のケースのように、Word原稿と実際に提出されたPCT文書との間に形式上の相違が存在する場合、Word原稿を正確に翻訳するだけでは、PCT文書のミラートランスレーションにならない可能性があります。

これは、AIによる翻訳精度そのものとは別の問題です。

近年のAIは、特許明細書についてもかなり高品質な英文を生成できるようになっています。一方で、実際の外国出願に使用する英文を作成するためには、単に「日本語を正確な英語に翻訳できているか」だけでなく、

  • 何を翻訳対象の原稿とするのか
  • 原文と翻訳文との対応関係が維持されているか
  • PCT出願書類への変換に伴う形式変更が反映されているか

といった点まで確認する必要があります。

そのため、AIを特許翻訳に利用する場合には、AIの高い翻訳能力を活用しつつ、特許実務の観点から翻訳工程全体を設計し、最終的な英文を確認することが重要だと考えています。

弊所では、このような考え方に基づいて、AIの翻訳能力と弁理士によるレビューを組み合わせた「AI活用型 特許翻訳・英文明細書作成サービス」を提供しています。

サービスの内容や、AIをどのように特許翻訳・英文明細書作成に活用しているかについて、次にまとめています。

AI活用型 特許翻訳・英文明細書作成サービス