欧州特許審査におけるクレームの記載要件(EPC Article 84)違反への対応

クレームが記載要件(EPC Art.84)を満たさないとする欧州での特許審査への応答において補正以外の選択肢を検討する際に使えそうな情報を調べたのでご紹介します。

欧州では、EPC Art.84の規定に基づき、明細書に記載の特徴を独立クレームで限定するように審査官から求められるケースがあります。
このような審査に対しては、
「要求された特徴はクレームに入れなければならない」
と素直に考えるのは必ずしも適切ではありません。
と言うのも、審査官の言うとおりに補正するのは、実効性のある権利範囲の取得の観点から許容できないことも少なくないからです。

このように補正したくないケースでは、
「審査官が限定を求める特徴は”essential feature”ではない」
と反論することが有効となるかもしれません。
ここで重要なのは、EPC ガイドラインにおいて、
“essential features” は「明細書に書かれている特徴」ではなく、「技術的課題の解決に寄与する特徴」である点です。
この点について、EPCの規定に即して次に見ていきます。

EPC Art.84の規定は次の通りです。
 クレームには、保護が求められている事項を明示する。クレームは、明確かつ簡潔に記載し、
明細書により裏付けがされているものとする。
 The claims shall define the matter for which protection is sought. They shall be clear and concise and be supported by the description.

さらに、EPC Art. 84に関するガイドラインでは、クレームが記載要件を満たさないとする類型が示されています(4.5.1 Objections arising from missing essential features )。
EPC ガイドライン↓
https://www.epo.org/en/legal/guidelines-epc/2023/f_iv_4_5_1.html
このガイドラインによれば、発明に必須の特徴、すなわち”essential features”の欠落はクレームの記載要件違反になると示されています。
したがって、クレームが記載要件を満たすためには、全ての”essential features”を独立クレームで明記することが求められます。

では、審査において、”essential features”はどのように認定されるのでしょうか。
EPC Art. 84に関するガイドラインの”4.5.2 Definition of essential features”にその説明があります。
EPC ガイドライン↓
https://www.epo.org/en/legal/guidelines-epc/2023/f_iv_4_5_2.html
このガイドラインには、
– “essential features”は、技術的課題の解決の基礎となる技術的効果を達成するために必要な特徴であり、独立クレームは、発明を実施するために必要と明細書に明示された全ての特徴を含む必要がある
– 課題の解決に実際に寄与しない特徴は、”essential features”ではない
– 特徴によってもたらされる技術的な効果や結果が、特徴が課題の解決に寄与するか否かに答える鍵となる

と示されています。

したがって、実施形態に記載の特徴を独立クレームで限定するように審査官が求めてきた場合には、
当該特徴が技術的課題の解決に必要な(換言すれば、技術的効果の達成に必要な)”essential features”であるか否か
が検討すべき事項となります。
検討の結果、当該特徴が”essential features”ではないと判断できる場合には、上記のガイドラインに沿ってこの点を反論することが審査への対応方針となりえます。

また、EPCガイドラインのAnnexで示される以下の Example は、審査官からの補正要求に対し、どのようなロジックで「 essential feature ではない」と反論するかを検討するにあたって、実務上非常に参考になります。

つまり、EPC Art. 84に関するガイドラインには、”essential features”に関する具体例を示したAnnexが設けられています。
EPC Annex: Examples concerning essential features↓
https://www.epo.org/en/legal/guidelines-epc/2023/f_iva.html
懸案の特徴が”essential features”ではないと判断される例の一部を抜粋して要約すると次の通りです。

Example 2
独立クレームの特徴は課題を解決するために十分であり、機構の詳細などのさらなる特徴は課題の解決に必要ではない。

Example 3
クレームは、画素データの間の誤差が最小になるようにテレビジョン信号を符号化する装置に係る。明細書では、誤差を最小化する例として、最小二乗法のみが説明される。当業者でれば、最小化するための機能をどのように実装できるかは理解でき、最小二乗法が適用可能な唯一な方法であるかは関係ない。したがって、最小二乗法を用いるとの限定は必要ない。