特許権侵害訴訟に学ぶ、ジレットモデル(消耗品モデル)における特許の活用 -消耗品市場への参入障壁を特許で築くには
で紹介する裁判例の詳細です。
令和2(ネ)10057
控訴人特許権者:リコー
被控訴人:社ディエスジャパン、ディエスロジコ、奥美濃プロデュース
特許権:特許第4886084号、特許第5780375号、特許第5780376号
特許製品:トナーカートリッジ
(1)特許発明の概要
各特許発明はいずれも、レーザプリンタの本体に着脱可能に装着されるトナーカートリッジに搭載される情報記憶装置に関する。情報記憶装置には例えばカートリッジの使用履歴等のデータが記憶され、レーザプリンタ本体にカートリッジが装着されると、レーザプリンタ本体は情報記憶装置からデータを読み出してカートリッジの管理などを行う。特に各特許発明は、レーザプリンタ本体の端子と情報記憶装置の端子とを電気的に接触させる技術に関する。
特許第4886084号の発明は、情報記憶装置にアース端子を設けて、プリンタ本体の接地用端子にアース端子を接触させる構造に特徴を備える。特許第5780375号の発明は、プリンタ本体の端子と接触する情報記憶装置の各種端子のレイアウトに特徴を備える。特許第5780376号の発明は、穴部が形成された基板と、穴部に形成されたアース端子とを情報記憶装置に設けて、穴部にプリンタ本体の突起部が挿入され、穴部より下方の基板の縁部がプリンタ本体のリブに当接するといった特徴を備える。
(2)事案の概要
控訴人特許権者は、トナーカートリッジの電子部品(情報記憶装置)についてデータの書き換えを制限する書換制限措置を講じてトナーカートリッジを販売していた。特許権者のプリンタに特許権者のトナーカートリッジが装着されると、トナーの残量がプリンタの画面に表示される。また、トナーを使い切ると、特許権者の電子部品のメモリに書換制限情報が書き込まれる。書換制限情報が電子部品に書き込まれた特許権者のトナーカートリッジにトナーを再充填して特許権者のプリンタに装着すると、トナーの残量が検知不可であることがプリンタの画面に表示される。ただし、印刷自体は実行可能である。
被控訴人は、控訴人特許権者の使用済みのトナーカートリッジから電子部品を取り外して別の電子部品に取り替えてからトナーを再充填し、再生品としてトナーカートリッジ製品を製造・販売していた。
(3)裁判所の判断
使用済みのトナーカートリッジの電子部品を交換し、トナーを再充填して販売する行為の特許権侵害の成否を判断するに際して、特許権の消尽が争点となった。裁判所は、原告製品(特許製品)は消尽しないとして、被告製品の販売の差し止めを認めた。
消尽を否定する理由として、裁判所は、『原告電子部品を搭載した使用済みの原告製品から,原告電子部品を取り外し,被控訴人らの製造した被告電子部品と取り替えた上で,トナーを充填し,再生品として製造し販売したものであるから,被告電子部品は,控訴人が譲渡した原告製品に搭載された原告電子部品と同一性を有するものではない。』と示している。