特許権侵害訴訟に学ぶ、ジレットモデル(消耗品モデル)における特許の活用 -消耗品市場への参入障壁を特許で築くには
で紹介する裁判例の詳細です。
平成30年(ワ)3461
原告特許権者:タカゾノ
被告:日進医療器、セイエー、OHU
特許権:特許第5467126号
特許製品:分包紙ロール
(1)特許発明の概要
特許発明は、薬剤を分包する分包紙ロールに関する。図4Aおよび図4Bに示すように、分包紙ロールは、紙管と、紙管に巻き回される分包紙とを有する。紙管の両端のそれぞれには、複数の磁石が設けられる。読取手段が磁石を検出するパターンに基づき、紙管に巻き回された分包紙の種類が認識される。特に、一端における磁石の取付角度と、他端における磁石の取付角度とが異なる。これによって、パターンの情報量を多くすることができる。
【図4A】
【図4B】
(2)事案の概要
原告(特許権者)は、使用済みとなった原告製品の紙管を回収するようにしていた。
これに対して、被告日進は、分包紙(被告製品)をウェブサイトに掲載し、発注に応じて調剤薬局等に販売した。被告セイエーは、被告OHUの委託を受けて被告製品を製造してこれを被告OHUに販売し、被告OHUはこれを被告日進に販売した。
図4Cに示すように、被告製品は、プラスチック製の芯材に分包紙を巻き回したものである。利用者が、原告製品(特許製品)の分包紙を使い切った紙管(使用済み紙管)に輪ゴムを巻いたものを被告製品の芯材に挿入することにより両者を一体化した一体化製品が構成される。つまり、被告は分包紙を販売し、ユーザが手元に保管する紙管に輪ゴムを巻いて被告製品の分包紙に挿入することで一体化製品が構成される。
このように、被告は、ユーザが手元に保管する使用済みの紙管に装着可能な分包紙を販売していた。そこで、特許権の間接侵害に基づき、被告の分包紙の販売による損害の賠償が求められた。
【図4C】
(3)裁判所の判断
裁判では、ユーザが手元に保管する使用済みの紙管に装着可能な分包紙を販売する被告の行為の間接侵害の成否を判断するに際して、特許権の消尽が争点となった。裁判所は、原告製品(特許製品)は消尽しないとして、間接侵害による損害の賠償を認めた。
特に裁判では、原告製品の消尽に関して、原告製品と被告製品との同一性が争点となった。これに対して、裁判所は、『分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をいったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たる』と判断した。
特に、裁判所は、『原告製の使用済み紙管については,相当数が回収されていることが認められるのであるから,本件特許の特徴は紙管の構造にあるとしても,原告製品を購入する利用者が原告に支払う対価は,基本的に分包紙に対するものであると解されるし,調剤薬局や医院等で薬剤を分包するために使用されるという性質上,当初の分包紙を費消した場合に,利用者自らが分包紙を巻き回すなどして使用済み紙管を繰り返し利用するといったことは通常予定されておらず,被告製品を利用するといった特別な場合を除けば,原告より新たな分包紙ロールを購入するというのが,一般的な取引のあり方であると解される。』とし、『分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をいったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たるというべきであり,消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。』と認定している。
つまり、使用済みの紙管の相当数が回収されており、利用者が分包紙を巻き回して使用済みの紙管を繰り返し利用することは予定されていない取引のあり方から、分包紙の消費の時点で製品としての効用を喪失するため、使用済み紙管を被告製品の分包紙と合わせる行為は新たな特許製品の製造に当たるとしている。