「こまつの杜に行ってきました」にも書きましたが、ジレットモデル(消耗品モデル)における特許権の役割が気になって、関連する特許権侵害訴訟から紐解いてみたので、書き留めておきます。
1.ジレットモデル(消耗品モデル)における特許権の役割
ジレットモデル(消耗品モデル)は、装置本体を割安で販売することで装置本体の普及を促しつつ、装置本体で使用される消耗品で利益を上げるビジネスモデルです。インクジェットプリンタを例に挙げると、割安の販売によりプリンタ本体を普及させて、消耗品であるインクで利益を上げます。そのため、利益の源泉となる消耗品の市場でシェアをしっかり確保することが重要となります。
しかしながら、消耗品市場でのシェア確保は、必ずしも容易ではありません。つまり、ジレットモデルの成立には、装置本体の普及のために先行投資した費用を、消耗品の販売で回収する必要があります。一方、先行投資を行わない他社(セカンドムーバ)は、投資回収の必要がないため、低価格の製品で消耗品市場に参入することができます。このような価格優位性は、他社の市場参入への誘因となります。例えばインクジェットプリンタの分野では、使用済みの純正品インクタンクを他社が回収し、これにインクを再充填してリサイクル販売するといったケースが見られます。
したがって、ジレットモデルを戦略とする場合、消耗品市場への他社の参入をけん制することが極めて重要となります。とは言え、他社の消耗品を不当に市場から排除する行為は、独占禁止法に抵触するおそれが出てきます。
そこで、活用されるのが特許権です。つまり、独占禁止法の第21条には、『この法律の規定は,著作権法,特許法,実用新案法,意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。』と規定されています。したがって、特許権の行使と認められる行為によって、独占禁止法への抵触を回避しつつ、消耗品市場への他社の参入をけん制します。
2.消耗品の特許による参入障壁の構築
では、消耗品市場への参入障壁を特許権により構築するには、どうすればよいでしょうか。シンプルには、消耗品について特許権を取ることです。消耗品について回避不能な特許権を取得できれば、特許権は強力な参入障壁となります。したがって、消耗品の特許権の取得は最初に検討すべき事項となります。
ただし、特許技術を回避した消耗品がユーザに受け入れられると、消耗品の特許権による参入障壁の構築は難しくなります。インクジェットプリンタの例では、特許技術を回避した低価格のインクでユーザニーズを満たす画像が印刷できれば、ユーザはこのインクを購入するでしょう。仮に低価格インクを使い続けたためにプリンタ内部でインクがつまるといった不具合があるとしても、ユーザがこれを気に留めるとは限りません。つまり、消耗品に係る特許技術の機能がユーザにとって必ずしも重要に映らず、消耗品の特許権が参入障壁として働かないケースがあります。
3.カートリッジの特許による参入障壁の構築
そこで、次の特許裁判例1-5に見られる特許権者の戦略が参考となります。
ジレットモデルの特許裁判例1
ジレットモデルの特許裁判例2
ジレットモデルの特許裁判例3
ジレットモデルの特許裁判例4
ジレットモデルの特許裁判例5
これらの裁判例では、消耗品のカートリッジ(特許裁判例5では、カートリッジの部品)について取得した特許権によって、他社製品の消耗品市場からの排除に成功しています。各特許裁判例の詳細はリンク先の別記事で説明することとし、以下では、これらの分析から抽出したカートリッジの活用例について説明します。
下図に示すように、カートリッジ方式の装置は、装置本体と、装置本体に着脱されるカートリッジとを備え、カートリッジによって消耗品が保持されます。
インクジェットプリンタであれば、プリンタ本体が装置本体に該当し、プリンタ本体に着脱されるインクタンクがカートリッジに該当し、インクタンクに貯留されるインクが消耗品に該当します。そして、消耗品を満杯に保持するカートリッジが、装置本体に装着されて消耗品が消費されます。消耗品が使い切られると、空のカートリッジが装置本体から取り外されて、満杯のカートリッジが、新たに装置本体に装着されます。そのため、消耗品市場では、消耗品を保持するカートリッジが流通します。
したがって、カートリッジについて特許権を取ることで、参入障壁の構築が期待できます。ただし、上述の消耗品と同様に、特許権が参入障壁の構築に資するかは、ユーザから見た特許技術の重要性に依存します。つまり、カートリッジの特許技術により奏される機能がユーザにとって重要であれば、特許技術の回避は難しく、特許権が参入障壁となりえます。特許裁判例1では、カートリッジのシール開封時のインク漏れを防ぐ特許技術によって、他社製品の消耗品市場からの排除に成功しています。ただし、ユーザが重視する機能をカートリッジ単体で実現するのが難しいケースもあります。
そこで、特許裁判例2、3、4、5に見られる特許権者の戦略が参考となります。これらの特許裁判例では、下図に示すように、装置本体と協働して所定の機能(協働機能)を奏する本体協働部をカートリッジに搭載して、本体協働部に関わる技術について特許権を取得することで、参入障壁の構築を図っています。
特許裁判例2および5では、本体協働部としてメモリ等の記憶装置がカートリッジに搭載されます。そして、特許裁判例2に係る製品では、装置本体からの信号と記憶装置に記録された情報とが一致した場合にカートリッジのLEDを点灯させるといった協働機能が奏されます。特許裁判例5に係る製品では、記憶装置から読み出したトナーの残量をプリンタの画面に表示するといった協働機能が奏されます。
特許裁判例3および4では、本体協働部として磁石がカートリッジに搭載されます。そして、特許裁判例3に係る製品では、装置本体の角度センサによりカートリッジの磁石を検知することでカートリッジ(芯管)の回転角度を取得するといった協働機能が奏されます。特許裁判例4に係る製品では、装置本体の読取手段により読み取った磁石の検出パターンに基づき、カートリッジが保持する消耗品(分包紙)の種類を認識するといった協働機能が奏されます。
本体協働部を有さない非純正品は、本体協働部と装置本体とによる協働機能を達成できません。したがって、この協働機能がユーザにとって重要であれば、本体協働部に係る特許権によって参入障壁を構築できます。換言すれば、ユーザが重要視する協働機能を達成する本体協働部を設計して、本体協働部に係る特許権を取得することが参入障壁構築の鍵となります。
ここで注目すべきは、協働機能の達成を目的とする技術について特許権を取得することが重要なのはもちろんですが、協働機能の達成を目的とはしない技術の特許権も参入障壁の構築に資する点です。
詳述すると、特許裁判例5において特許権による販売差し止めの対象となった製品は、トナーカートリッジ製品です。このトナーカートリッジ製品は、本体協働部に相当する情報記憶装置を搭載し、この情報記憶装置は、トナーの残量をプリンタの画面に表示するといった「協働機能」を奏します。そして、この情報記憶装置について3件の特許権が取得されていました。ただし、これらの特許権は、「協働機能」を目的とするものではありません。これらの特許権は、プリンタ本体の端子と記憶装置の端子とを電気的に接触させることを目的とします。
つまり、特許権者は、トナーの残量表示という協働機能を奏する「情報記憶装置」を搭載したカートリッジを市場投入した上で、「情報記憶装置」に係る特許権を協働機能と異なる切り口で取得することで、他社製品の市場からの排除に成功しています。このように、協働機能に必要な本体協働部について協働機能と異なる切り口で取得した特許権が参入障壁の構築に資することが見て取れます。
4.ジレットモデルを守るための特許の類型
以上の議論から、ジレットモデルを守るための特許の類型として次が挙げられます。
・消耗品の特許
・カートリッジの特許(特許裁判例1、2、3、4)
・カートリッジの部品の特許(特許裁判例5)
また、カートリッジあるいはカートリッジの部品の特許については、装置本体と協働しない単体機能(特許裁判例1)に係る類型と、装置本体と協働する協働機能に係る類型(特許裁判例2、3、4、5)とが挙げられます。
5.本体協働部の特許の戦略的活用
上記の類型のうち、カートリッジに搭載される協働機能に係る類型については、より戦略的な活用事例が見られます。
特許裁判例2の判決文によれば、『原告は、平成17年9月、それ以降に発売するプリンタを発光機能付きの原告製インクタンクでないと動作しないように設計した上、ICチップが搭載された原告製インクタンクの製造販売を開始した』と被告は主張しています。
被告の主張の通りであれば、
①本体協働部を搭載するカートリッジを市場のスタンダードとする
②本体協働部に関する特許権により参入障壁を構築する
という特許権者(原告)の戦略が見て取れます。
つまり、本体協働部を搭載するカートリッジでないと動作しないように装置本体を設計した場合、装置本体を使用するユーザは、本体協働部を搭載するカートリッジを購入する以外に選択肢を持ちません。したがって、本体協働部を搭載するカートリッジが消耗品市場におけるスタンダードとなります。その上で、本体協働部に係る技術について特許権を取得することで、効果的な参入障壁を構築することができます。
ただし、かかる戦略を取る場合には、装置本体そのものを動作しないように構成することに技術的な必要性等の合理的な理由がないと、独占禁止法に抵触するおそれがあるため、注意が必要です。
6.カートリッジの特許権がクリアすべき消尽というハードル -リサイクルと消尽
カートリッジあるいはカートリッジの部品の特許権(以下、特に断らない限り「カートリッジの特許権」と総称)による消耗品市場への参入障壁構築について、特許裁判例を通じて見てきました。ただし、特許権が参入障壁として機能するためには、特許権に基づく他社製品の販売の差し止めが法的に認められる必要があります。これに対して、カートリッジの特許権には、消尽というハードルが存在します。
つまり、他社が特許技術を用いたカートリッジを新たに製造して販売する場合には、他社の行為は特許権の侵害となるため、これを差し止めることができます。ただし、特許権者が販売するカートリッジを他社がリサイクルする場合、特許権に基づく差し止めが認められるには、特許権が消尽していないことが必要です。
詳述しますと、カートリッジの特許権によって消耗品市場への参入障壁を構築する戦略においては、特許権者は、特許製品であるカートリッジを市場で販売します。これに対して、他社の消耗品市場への参入形態の一つとしてリサイクルがあります。リサイクルの場合、特許権者が販売したカートリッジの消耗品が使い切られると、他社は空のカートリッジを回収して、これに消耗品を補充して販売します。
BBS並行輸入事件最高裁判決(平成7(オ)1988)によれば、『我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において当該特許発明に係る製品を譲渡した場合においては、特許権者は、譲受人に対しては当該製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、その後の転得者に対しては譲受人との間で右の旨を合意した上当該製品にこれを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において特許権に基づき差止請求権損害賠償請求権等を行使することはできない。』と示されています。
この判決が示すように、特許権者がカートリッジを販売(譲渡)した時点で特許権が消尽するのであれば、カートリッジをリサイクルする行為を特許権により差し止められるのかが問題となります。これついて判断を示した最高裁判決が特許裁判例1(平成18(受)826)です。
この判決では、『特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ、それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは、特許権者は、その特許製品について、特許権を行使することが許される』と示しました。また、特許製品の新たな製造に当たるかは、①特許製品の属性、②特許発明の内容、③加工及び部材の交換の態様、④取引の実情等を総合考慮して判断するのが相当と示しました。
したがって、リサイクル行為を特許権により差し止めるためには、カートリッジをリサイクルする他社の行為が、同一性を欠く特許製品の新たな製造に該当すると、この判決の基準に照らして認められる必要があります。
このように、カートリッジの特許権による消耗品市場への参入障壁構築には、消尽というハードルをクリアする必要があり、そのためには、カートリッジのリサイクル行為が、特許裁判例1の判決が示す上記基準を満たす必要があります。
では、カートリッジの特許権が消尽というハードルをクリアするために取り得る戦略はあるでしょうか。特許裁判例1の最高裁判決や、この後に判決が出された特許裁判例2、3、4、5から、特許権の消尽を回避するための戦略の類型が見て取れます。続いてはこれについて説明します。
7.特許権の消尽を回避するために使える戦略の類型
(1)消耗品の使い切りに伴うカートリッジの特許機能の消失
特許裁判例1では、使用済みのカートリッジにおいて消失していた特許発明の機能を回復させるリサイクル業者の行為が、特許権の消尽を否定する理由の一つに挙げられました。
つまり、特許発明は、インクタンク内に設けられた圧接部のインクそのものによりインクを堰き止めることで、シール開封時のインクの漏れを防ぐとの機能を発揮します。これに対して、インクを使い切った後しばらく経過したインクカートリッジの内部ではインクが固着するため、そのままインクを再充填しても、特許発明の機能が発揮されません。そこで、リサイクル業者は、インクカートリッジの内部を洗浄してからインクを再充填することで、特許発明の機能を回復させていました。裁判所は、特許製品の機能を回復させるリサイクル業者のこの行為を特許製品の新たな製造と認定する理由の一つに挙げて、特許権の消尽を否定しました。
このように、特許裁判例1では、消耗品の使い切りに伴って消失するカートリッジの特許機能を回復させるリサイクル業者の行為が、特許権の消尽を否定する理由の一つとなっています。そこで、消耗品の使い切りに伴って特許機能が消失するようにカートリッジを設計することは、特許権の消尽回避に資すると言えます。
(2)使用済みカートリッジの特許部品の機能制限
消耗品の使い切りに伴ってカートリッジの特許機能が消失するような設計は容易でないかもしれません。これに対しては、使用済みカートリッジの特許部品の機能を制限するようにカートリッジを設計することが有効かもしれません。
特許裁判例5では、使用済みのカートリッジにおける機能の制限を特許部品(情報記憶装置)の取り替えにより解除するリサイクル業者の行為が、特許権の消尽を否定する理由の一つに挙げられています。
つまり、原告は、カートリッジに搭載される電子部品について特許権を取得していました。この電子部品は、カートリッジの装着に応じて、プリンタ本体にトナー残量を表示するために使用されます。ただし、特許権は、トナー残量の表示に関するものではなく、電子部品の端子とプリンタ本体の端子との電気的接触に関するものです。
原告製品では、トナーの使い切りに伴ってカートリッジの電子部品に書換制限情報を書き込むことで、以後のカートリッジのトナー残量の表示を制限します。そこで、リサイクル業者は、使用済みのカートリッジから原告電子部品を取り外して被告電子部品に取り替えていました。裁判所は、リサイクル業者のこの行為を理由に挙げて、特許権の消尽を否定しました。
このように、特許裁判例5では、使用済みのカートリッジで制限される機能を回復させるために、リサイクル業者は原告電子部品を被告電子部品に取り替えていました。これに対して、原告は、この電子部品について特許権を取得していました。裁判所は、被告電子部品は、原告が譲渡した原告製品に搭載された原告電子部品と同一性を有するものではないとして、特許権の消尽を否定しました。そこで、使用済みのカートリッジの特許部品の機能を制限するようにカートリッジを設計することは、特許権の消尽回避に資すると言えます。
ちなみに、余談になりますが、カートリッジではなく、電子部品について特許権が取得されているため、電子部品を取り替える行為は、消尽の議論の余地なく特許権侵害と解せるのではないかと、個人的には思います。
また、特許裁判例5について特筆すべきは、消耗品の使い切りに伴って制限される特許部品の機能は、特許発明の機能と異なる点です。つまり、制限対象となる機能は、トナー残量の表示であるのに対して、特許発明の機能は、電子部品の端子とプリンタ本体の端子との電気的接触です。このように、制限対象となる機能を担う部品について、当該機能に限られない何かしらの特許権を取得しておくことで、参入障壁が構築できる点は、この類型の利点と言えそうです。
(3)消耗品の補充困難性
特許裁判例1では、使用済みのカートリッジにインクを再充填するためにインクカートリッジに再充填用の穴を空けるリサイクル業者の行為が、特許権の消尽を否定する理由の一つに挙げられています。
つまり、特許製品に係るカートリッジには、インクを再充填するための開口部は設けられていません。そこで、リサイクル業者は、カートリッジに穴を空けて、そこからインクを再充填していました。裁判所は、消耗品の補充のためにカートリッジを加工するリサイクル業者のこの行為を特許製品の新たな製造と認定する理由の一つに挙げて、特許権の消尽を否定しました。
したがって、消耗品が使い切られたカートリッジへの消耗品の補充が困難となるようにカートリッジを設計することは、特許権の消尽回避に資すると言えます。
(4)カートリッジではなく消耗品に価値があることの立証容易性
特許裁判例3では、特許製品の属性として消耗品の価値が高いことが、特許権の消尽を否定する理由の一つに挙げられています。
この裁判では、分包紙(消耗品)を使い切った後の芯管(カートリッジ)はその後もそのまま使い続けられることから、芯管に分包紙を巻き直しただけの被告行為は、特許製品の新たな製造ではない旨を、被告は主張していました。
補足すると、分包紙が使い切られた後も芯管は特許機能を発揮でき、消耗品の使い切りとともに芯管が特許機能を消失するものではありません。また、消耗品を使い切る程度の期間で芯管は耐用年数を終えるものでもありません。したがって、芯管に消耗品を巻き直しただけの被告の行為は特許製品の新たな製造に該当しないとするのが被告の主張です。
これに対して、裁判所は、特許製品の属性としては分包紙の部分の価値が高く、分包紙が消費された時点で製品としての本来の効用を終えることから、被告の行為は特許製品の新たな製造に該当すると認定しました。特に裁判所は、厳密に衛生管理された工場内で高度な品質の製品を製造していることを示す証拠に基づき、分包紙の価値が高いと認定しました。
したがって、カートリッジではなく消耗品に価値があることを立証容易な状況を整えておくことは、特許権の消尽回避に資すると言えます。
(5)カートリッジの貸与・回収
特許裁判例3では、裁判所は、原告製品のカートリッジ(芯管)は無償で貸与されるものであると顧客との間で合意され、相当数が回収されていることを理由に、カートリッジについては消尽の前提を欠いているとして、カートリッジの特許権の消尽を否定しました。
特許裁判例4では、裁判所は、原告(特許権者)製のカートリッジ(紙管)の相当数が回収されていることから、利用者の対価は消耗品(分包紙)に対するものであり、消耗品を消費した場合には原告より新たな分包紙ロールを購入することが一般的な取引のあり方であるとしました。その上で、裁判所は、分包紙の消費の時点で製品としての効用を喪失するため、使用済み紙管を被告製品の分包紙と合わせる行為は新たな特許製品の製造に当たるとして、特許権の消尽を否定しました。
したがって、カートリッジを貸与として、消耗品の消費後にはカートリッジを回収する運用は、特許権の消尽回避に資すると言えます。
8.ジレットモデル(消耗品モデル)を特許で守るフレームワーク
以上を踏まえて、ジレットモデル(消耗品モデル)を特許で守る戦略を立案するためのフレームワークについて、まとめておきます。
(1)特許の類型
取得する特許の類型については、次の組み合わせを検討することができます。
消耗品市場への参入障壁の構築のためには、これらの組み合わせをミックスした特許ポートフォリオの形成が有効となりえます。
なお、表中には、該当の組み合わせが確認された裁判例を示しています。
また、“*”は、今回検討した裁判例からは見いだされない組み合わせです。これらの類型についても特許の取得を検討することは有効かもしれません。例えば、所定のセンサで検知可能な材料を消耗品に混ぜておくことで、材料の検知結果から消耗品の残量を推定するといったことが検討できるかもしれません(消耗品×協働機能)。
(2)特許権の消尽を回避するための戦略の類型
・消耗品の使い切りに伴うカートリッジの特許機能の消失
・使用済みカートリッジの特許部品の機能制限
・消耗品の補充困難性
・カートリッジではなく消耗品に価値があることの立証容易性
・カートリッジの貸与・回収