特許権侵害訴訟に学ぶ、ジレットモデル(消耗品モデル)における特許の活用 -消耗品市場への参入障壁を特許で築くには
で紹介する裁判例の詳細です。
平成24年(ワ)第8071
原告特許権者:湯山製作所
被告:日進医療器
特許権:特許第4194737号
特許製品:薬剤分包用ロールペーパ
(1)特許発明の概要
特許発明は、シートに薬剤を分包する薬剤分包装置に用いられる薬剤分包用ロールペーパに関する。図3Aに示すように、薬剤分配装置は、支持軸に対して回転自在に設けられた中空軸と、支持軸の一端に設けられたフランジに取り付けられた角度センサとを備える。一方、薬剤分包用ロールペーパは、中空芯管と、中空芯管の外周にロール状に巻かれたロールペーパとを備える。
【図3A】
図3Bに示すように、中空芯管が中空軸に装着されると、薬剤分包用ロールペーパは、中空軸と一体的に回転する。この薬剤分包用ロールペーパは、磁石を有し、薬剤分包装置は、角度センサによって磁石を検出する。これによって、ロールペーパの回転角度を検出可能となる。
【図3B】
(2)事案の概要
原告(特許権者)は、使用済みとなった原告製品の芯管を回収するようにしていた。具体的には、原告は、原告装置を販売するに際して、『①原告製品の芯管は分包紙を使い切るまでの間無償で貸与するものであること,②使用後は芯管を回収すること,③ 第三者に対する芯管の譲渡,貸与等は禁止すること』について顧客の承諾を得ていた。また、原告は、原告製品の芯管を変換した顧客にポイントを付与して、ポイントが一定数に達すれば景品と交換するサービスを実施し、芯管の回収率は97%以上であった。
これに対して、被告は、原告製品の分包紙が消費された後に残った使用済み芯管を回収し、それに分包紙を巻き直すことで製品化した被告製品を販売する。
(3)裁判所の判断
裁判では、特許権者により販売された原告製品(特許製品)の使用済みの芯管に分包紙を巻き直して販売する行為の特許権侵害の成否を判断するに際して、特許権の消尽が争点となった。裁判所は、原告製品(特許製品)は消尽しないとして、被告製品の販売の差し止めを認めた。
なお、裁判において被告は、被告製品は原告製品の使用済み芯管をそのままの状態で再利用したものであるから、被告製品について本件特許権は消尽している旨を主張していた。
これに対して、裁判所は、原告製品の芯管は無償で貸与されるものであると顧客との間で合意され、相当数が回収されていることを理由に、芯管は消尽の前提を欠いており、被告の主張には理由がないとしている。
また、被告は、原告製品と被告製品は同一性を有すると主張していた。つまり、被告は、芯管自体には何らの加工や部品交換も行っておらず、芯管は、分包紙を使い切る程度の期間で破損したり劣化したりするものではないことを理由に、芯管のリサイクルは、特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用をするものではないと主張していた。そして、被告は、このような芯管のリサイクルは、特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用をするものではないため、被告製品は、原告製品と同一性を有しており、新しく特許製品を製造したものではないと主張していた。
これに対して、裁判所は、被告製品は、同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認めるのが相当として、被告の主張を退けている。
特に裁判所は、『証拠(甲10)によれば、原告製品は、病院や薬局等で医薬品の分包に用いられることから高度の品質が要求されるものであり、厳密に衛生管理された自社工場内で製造されていることが認められる。同様に、証拠(甲12~14、乙5)によれば、被告製品も、被告が製造委託した工場において高い品質管理の下で製造されていることが認められる。これらのことからすれば、顧客にとって、原告製品(被告製品)は上記製品に占める分包紙の部分の価値が高いものであること、需要者である病院や薬局等が使用済みの芯管に分包紙を自ら巻き直すなどして再利用することはできないため、顧客にとって、分包紙を費消した後の芯管自体には価値がないことも認められる。』と認定した。
その上で裁判所は『特許製品の属性としては,分包紙の部分の価値が高く,分包紙を費消した後の芯管自体は無価値なものであり,分包紙が費消された時点で製品としての本来の効用を終えるものということができる。芯管の部分が同一であったとしても,分包紙の部分が異なる製品については,社会的,経済的見地からみて,同一性を有する製品であるとはいいがたいものというべきである。』と認定した。